11-2. DNAの調製
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1) 細胞からのゲノムDNAの抽出
原理
細胞中でDNAは他の多くの成分と混在している
DNA抽出のポイント
細胞に多量に存在し、DNAと強く結合しているタンパク質をいかに変性、あるいは解離させ、溶解度や比重の差でDNAと分けるか
基本的に、どのような細胞でも同じ方法を用いることができる
操作の概要
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1) 100 mM Tris-HCl バッファー(pH 8.0)、100~200 mM NaCl、1 mM EDTAで細胞を懸濁する。試料が組織の場合は、まず細胞を激しく撹乱して破壊する
100 mM Tris-HCI バッファー(pH 8.0)
バッファー(緩衝液)とはpHを安定化させる作用のある溶液
DNAを安定化させ、RNAを不安定化させるためpHを微塩基性にする
100~200 mM NaCl
DNA二本鎖を安定化させるために塩濃度を高める
1モルの分子数は$ 6.02\times10^{23}個(アボガドロ数)で、分子量100の分子の場合、100gで1モルとなる
1 mM EDTA
EDTA(エチレンジアミン四酢酸)は二価金属イオンと結合するキレート試薬(金属イオンを分子内に閉じ込める物質)で、DNA分解酵素を活性化するマグネシウムイオンなどを除くことにより分解酵素が働かないようにする
2) pHを7.5~8.0に調整したフェノールとSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を加え、強く撹拌して細胞を破壊する。高分子DNAを得たい場合は、切断されないようにゆるやかに撹拌する
いずれもタンパク質変性剤
フェノールはタンパク質を不溶化する(フェノール抽出)
3) 遠心分離で上層を集め、エタノールを加えてDNAを沈殿させる(エタノール沈殿)
遠心分離すると
下層
水にあまり溶けず、かつ水より重いフェノール
上層
DNAは水に溶けたまま
中間層
変性タンパク質は不溶化している
4) 遠心分離でDNAを回収し、TEバッファー(10 mM Tris-HCl (pH 7.5), 1 mM EDTA)に溶かして、DNA溶液を得る
得られたDNAには少量のRNAや多糖類が混入している可能性があるが、DNAをガラス棒に巻きつけて回収すると不純物が減る
2) 細菌からのプラスミド抽出
基本的な操作はゲノムDNAと同じ
ただし最初に、ゲノムDNAを沈殿として除くという操作が必要
よく使われる方法はアルカリ変性法(アルカリプレップ法)
菌体をアルカリで溶解した後(DNAは変性する)急激に中和すると、ゲノムはランダムコイル状になり、タンパク質などを巻き込んで沈殿するという原理
このほか、ボイルプレップ法という方法もある
界面活性剤で溶解した菌体を煮沸し、ゲノムをタンパク質の凝集塊として除く
この方法は主に小規模の抽出操作で使用される
3) DNAの精製
DNAの精製
不純物を取り除き、DNAの純度を高めること
糖類など、電荷のない物質を除く場合、負の電荷をもつDNA(RNAも)を正の電荷をもつ濾紙(e.g. DEAEセルロース)に吸着させて回収、除去することができる
比重や分子量に基づき、遠心分離で精製する方法もある
RNA除去はRNA分解酵素(RNase)を用いるのが一般的である
タンパク質を除ききれない場合はタンパク質分解酵素で処理するか、再度フェノール抽出を行う
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4) 核酸の濃度測定
核酸の濃度は、ヌクレオチドの吸収極大値である波長260 nmの紫外線の吸光度から算出する
二本鎖DNAの場合、吸光度0.02で1 μg/mL
純粋な天然のDNAは260 nmの吸光度が280 nmの吸光度の2倍ある
タンパク質は280 nmに吸光度のピークをもつ芳香族アミノ酸を含むため、280 nmに吸収極大を示す
一本鎖DNAは紫外線をより多く吸収するので、$ \mathrm{OD_{260}=0.03}で1 μg/mLと概算する
RNAは一本鎖だが、部分的に二本鎖構造をとるので、$ \mathrm{OD_{260}=0.025}で1 μg/mLと概算する
オリゴヌクレオチドの吸光度は塩基組成で大きく変わるため、濃度は次の計算式で算出する
$ \mathrm{オリゴヌクレオチドの濃度(pmol/\mu L)=OD_{260}\times\frac{100}{1.5N_A+0.71N_C+1.2N_G+0.8N_T}}
memo: 吸光度とOD
長さ$ Lcmの容器に濃度$ c(mol/L)の物質を含む溶液があり、そこに光が$ l_0の強さで入り$ lで出た場合、下式が成り立つ
$ A=\log(l_0/l)=\epsilon\ Lc
$ \epsilonは物質固有の値でモル吸光係数($ \mathrm{L/mol\cdot cm})、Aを吸光度という
吸光度は光学濃度(optical density: OD)と同義